高齢者施設の床仕上げ工事(抗菌PVC床材による施工実例)
高齢者施設における床仕上げ工事の事例をご紹介します。今回の現場では、既存床の老朽化に伴い、介護施設向けの床材として抗菌性能を備えたPVC系長尺シートを採用しました。高齢の入居者が日々安全かつ快適に過ごせるよう、素材選定から施工方法まで細心の注意を払っています。選定したビニル床シートは耐久性・清掃性に優れ、衛生管理もしやすいのが特長です。
以下、施工準備から仕上げまで、現場を担当したプロの視点でレポートいたします。
施工準備
まずは施工前の準備段階です。現場では既存床材の傷み具合をくまなく点検し、劣化が激しい部分を特定しました。下地の状態によって施工の難易度が左右されるため、プロの目で床面の平坦性や強度を丁寧に確認します。劣化した古い床材はすべて撤去し、新しい床材を貼るための下地処理を開始しました。幸いコンクリート下地に大きな不陸(デコボコ)はありませんでしたが、細かなレベル差は後述の下地調整で整える計画です。
次に、新しく貼る床材として抗菌仕様のPVCシートを用意しました。これは塩化ビニル樹脂製の長尺シートで、多くの医療・福祉施設でも採用実績のある材料です。抗菌剤が練り込まれた複層ビニル床シートで、細菌の増殖を抑制して衛生面を向上させる効果があります。また、耐水・耐摩耗性能が高く車椅子の走行にも耐える頑丈さを備えており、高齢者施設のように人の出入りや歩行量が多い環境でも長期間性能を維持できます。さらに表面に特殊UVコーティングが施されておりワックス不要のため、日常清掃で美観を保ちやすい点も選定の決め手になりました 。材料自体の施工性も良く、大判シートを用いることで工期短縮にもつながります。限られた休館日を利用して作業する必要がありましたが、この床材なら迅速な施工が可能だと判断しました。
下地調整と床材の施工
下地処理では、まず床面の微妙な凹凸を是正しました。下地が平坦でないままでは仕上がりに影響するだけでなく、将来的な床材の浮きや剥がれの原因にもなりかねません。そこでセルフレベリング材を部分的に流し込み、床面全体をできるだけ平滑に調整しました。わずかな段差も高齢者のつまずきにつながる恐れがあるため、バリアフリーの観点で念入りに平坦化しています。
十分に乾燥・硬化した下地に、専用の弾性接着剤を均一に塗布していきました。接着剤は床材の種類と下地に合わせて選定しており、塩ビシート用の強力タイプを使用しました。床全面にむらなく塗り終えたら、いよいよ抗菌PVCシートを貼り始めます。長尺シートを必要寸法にカットし、一枚一枚ずれないよう正確に敷き込んで圧着しました。シートは幅約1.8mありますので、2人がかりで息を合わせて持ち運び、位置決めを行っています。重いシートでも慎重に扱えば継ぎ目を最小限に抑えられるため、今回は広いエリアを少ない継ぎ枚数でカバーできました。継ぎ目が少ないほど見栄えも良く清掃もしやすくなります。
床材どうしの継ぎ目部分は、あらかじめ20〜30mm程度重ねて敷き込み、後からダブルカットという手法でピッタリと突き付けになるよう切り落としました。こうすることでシート間の継ぎ目が目立たず、隙間も最小限にできます。壁際や柱周りなど端部のシート切り込みも、熟練した職人がケガキ棒や定規を使って正確にマーキングし、切り過ぎや不足がないよう調整しました。端部は基本的に壁にぴったり合わせて余分を切り落とし、後で巾木を取り付けて隠すのが標準的な処理です。こうした床材の端部処理において、当社スタッフは経験に裏打ちされた手際の良さを発揮します。今回も各所のシート端を素早く美しく仕上げることができ、作業のスピードアップと品質確保の両立につながりました。
施工中特に注意したのは、共有部廊下への材料貼り込みです。高齢者施設では廊下や食堂などの共用部は人の往来や車イスの移動が頻繁なため、床材の強固な接着と仕上がりの滑りにくさが重要になります。接着剤塗布後は圧ローラーで入念に圧着し、シート裏全面を密着させました。表面が完全に接着したことを確認するため、靴底で踏んで異音がしないかチェックも行っています。さらに安全性を高めるため、採用シートの表層は微細なエンボス(凹凸)加工付きで防滑性が高く、万一水がこぼれた場合でも滑りにくい仕様です。手で触れてみても適度なザラつきが感じられ、これなら高齢者の方が歩行補助具なしで歩かれても安心だと実感しました。
仕上げ作業
現場では長尺シート同士の継ぎ目を専用ヒートガンと溶接棒を用いて熱圧着(溶接)しています。写真は職人が溶接棒をシーム(継ぎ目)に溶かし込みながらシートを一体化させている様子です。シート同士の継ぎ目を融着することで防水性や衛生面が向上し、美観も整います。温度と速度のコントロールが難しい繊細な工程ですが、熟練の技術で的確に施すことで、目地はほとんど目立たずしかも頑強に接合されます。
熱圧着によってシートの継ぎ目が一体化した後は、余分な溶接材を専用の剃刀状の工具で削り取り、滑らかな面に仕上げました。こうしてシームレスな床面が完成したら、最後に表面全体を清掃しながら最終仕上げを行います。メーカー出荷時からトップコートが施されている材料でしたが、光沢感を高めるために床面洗浄後に専用ポリッシャーで軽くポリッシングを実施しました。これにより床材本来の美しい艶が引き出され、室内が明るく感じられます。加えて、清掃時に抗菌剤配合のクリーナーを使用し、目に見えないレベルでの除菌も行っています。日頃から不特定多数が利用する高齢者施設では、見た目だけでなく衛生面のキレイさも求められるため、このような処置で安心感を高めました。
仕上げ工程の最後には、床と壁の取り合い部分にソフト巾木(ソフトな材質の幅木)を新調して取り付けました。巾木を回しておくことで床材の端部をしっかり押さえ、安全性と美観を確保できます。特に車イスや歩行器具が壁際に当たってもシート端がめくれ上がる心配がなく、清掃時にも汚れが隙間に入りにくくなります。周辺部まで含めて一連の床仕上げ工事が完了した時点で、照明の反射する床面を見渡しながら最終チェックを実施しました。継ぎ目もわからないほど一体感があり、艶のあるクリーンな床に生まれ変わった様子に、施工者として大きなやりがいを感じました。
仕上がりと成果
今回の床仕上げ工事により、施設内の床は見違えるほど明るく清潔な印象となりました。抗菌性能を持つ新しい床材は清掃しやすく衛生的で、スタッフの方からも「日々の清掃負担が減りそうだ」と好評です。耐久性に優れた長尺シートですので、車イスや歩行者の多い環境でも長期にわたり床面を美しく保てる見込みです。また、適度な弾力性を持つ複層シートゆえに歩行時の衝撃が和らぎ、高齢の入居者の膝や腰への負担軽減にもつながります。実際、歩行テストでは以前より足腰に優しい感触であることを確認しました。
施工の中で特筆すべきは、やはり端部処理の美しさとスピードです。巾木取り付けまで含めた細かな仕上げを短時間で的確に行えたことで、工期内に余裕をもって引き渡すことができました。職人の経験とチームワークによって、品質とスピードの両立を実現できた好例と言えます。床材の継ぎ目や端部が丁寧に処理されたことで見た目も非常に美しく、利用者にとって段差やつまずきの不安がない安全な床になりました。さらに防滑性のある仕上げ面ですので、高齢者の転倒リスク低減にも効果的です。安全性と快適性を最優先に素材・工法を選定した結果、施設関係者の安心感につながる床環境を提供できたと感じています。
最後に、現場を担当した者の実感として、プロの手で床をリニューアルする意義を改めて認識しました。古い床材を撤去して新しいシートを貼り込む作業は体力勝負な面もありますが、仕上がった床を見て「これで入居者の皆様が安心して歩ける」と思うと疲れも吹き飛びます。床仕上げは単なる見栄えだけでなく、そこで生活する人々の安全・健康に直結する重要な工事です。
今回採用した高齢者施設向け床材と丁寧な施工によって、生まれ変わった床は衛生面・安全面で大きな付加価値を施設にもたらしました。現場のプロとして培った知見と技術を活かし、これからも迅速かつ的確な対応で「床」を通じて安心・快適な空間づくりに貢献していきたいと思います。