玄関手すり取り付け工事報告書 – 築35年戸建て住宅のバリアフリー改修事例
先日、神奈川県内の築35年になる二階建て戸建て住宅にて、玄関の手すり取り付け工事を行いました。本記事では、その施工内容をプロの施工業者がまとめた報告書風にお伝えします。読者の中には、親御さんの自宅介護を検討されている方や、ご自宅のバリアフリー化に関心をお持ちの住宅施主の方もいらっしゃるでしょう。そうした方々に向けて、玄関の手すり取り付けによる戸建て住宅のバリアフリー改修のポイントや手順、現場での工夫を分かりやすく解説いたします。
施工前の準備と手すり高さの確認
工事に先立ち、まず玄関周辺の現場確認と事前準備を行いました。職人が壁の構造や下地の位置を下調べし、手すりをどこに取り付けるか大まかに検討します。その際、特に重要なのが手すり高さの確認です。手すりの高さは一般的に床からおよそ75〜85cm程度が標準的な目安とされていますが、実際に使われる方の体格や動作に合わせて微調整することが必要になります。
依頼主様には施工前に立ち会っていただき、お母様ご本人にも玄関で実際の昇降動作を再現してもらいました。具体的には、お母様に上がり框の前に立っていただき、仮にマスキングテープで目安の高さに印を付けた壁を掴む動作を試してもらいます。「このくらいの高さなら掴みやすい」「もう少し高いほうが楽」など率直なご意見を伺いながら、最適な手すりの高さと位置を決定しました。今回は床面から約80cmの位置がお母様にとって一番安定することが分かり、その高さを採用しています。さらに、施工後にも同じようにお母様に実際に使っていただき、高さや位置に問題がないか最終確認する段取りを事前に取り決めていました。こうした綿密な打ち合わせを経て、いよいよ工事本番に臨みました。
手すりの材質とデザイン選定
次に、手すり本体の材質やデザインの選定についてです。玄関内部で使用する手すりには、触れたときに冷たすぎず手になじみやすい木製のものを選びました。直径約35mmの丸棒タイプで、ご高齢のお母様の手でも無理なくしっかり握れる太さです。色は既存の玄関フローリングや建具に合わせたナチュラルなライトブラウン系とし、後付けの手すりであっても空間に調和するよう配慮しました。
デザイン面では、玄関の段差昇降に適した手すり配置としています。今回は上がり框の高さに沿って手すり棒を斜め(勾配付き)に取り付けるプランを採用しました。玄関土間に立った低い位置から室内の高い床へ移る一連の動作の間、ずっと手すりを握ったまま移動できるよう、手すり棒を下段から上段へ緩やかな角度で設置します。この斜め手すりにより、お母様は玄関を上がる際も降りる際も手を離さずに身体を支えられるようになりました。また、限られた玄関スペースでも邪魔にならないコンパクトな配置となるよう、手すりの長さや角度を調整しています。
取り付け位置の決定と下地補強の検討
手すりを設置する位置が決まったら、その箇所にしっかり固定できる下地があるかを確認します。築35年の木造住宅ともなると、壁の構造や図面上の柱位置が現場で若干異なる場合もあります。職人として一番避けなければならないのは、手すりに体重をかけた際にネジが効かず、壁ごと外れてしまう事態です。そのため、壁内部にある柱や間柱の位置を下地センサーや打診によって丁寧に探り、強固な固定先を特定しました。
今回は、手すりを取り付けたい位置にちょうど良い下地材が見当たらなかったため、補強板(ベース板)を併用することにしました。具体的には、厚み20mmほどのしっかりした木板をあらかじめ用意し、壁の下地となる柱や間柱にその板を長めのビスでしっかり固定します。補強板があることで手すり金具を取り付ける位置の自由度が増し、たとえ大きな荷重がかかってもビスが壁材から抜けず構造体で支えられるため安心です。
補強板を取り付ける際は、既存の壁材や仕上げにも注意します。室内の見栄えを極力損なわないよう、板の大きさや取り付け位置を検討しました。今回の場合は壁に木目調の腰板が貼られていたため、それに合わせた色合いの木製ベース板を使用し、後から取り付けた違和感を最小限に抑える工夫をしています。
玄関手すり取り付け工事の施工手順
実際の工事当日の作業手順を、以下に箇条書きでまとめます。
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養生(ようじょう)
施工箇所周辺の床や壁を傷つけないよう、養生シートやマスキングテープで保護しました。玄関土間や上がり框付近に工具を置くため、毛布やビニールシートでしっかり覆いました。また、工事中に出る木くずやホコリが周囲に飛散しないよう注意しました。
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墨出しと位置マーキング
事前に決定した手すりの高さ・角度に基づき、壁に補強板および手すり金具の取り付け位置を墨つぼや水平器を使って正確にマーキングしました。斜め手すりのため上下で高さが異なる位置になりますが、両端の金具が一直線になるよう角度を算出して壁に印を付けました。
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補強板の取り付け
下地位置を確認した箇所に、あらかじめ用意した木製の補強板を取り付けます。電動ドリルで壁材に下穴を開け、下地の柱に向けて長めのビスでしっかり固定しました。板がぐらつかず、体重をかけてもビクともしないことを確認しました。
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手すり金具の設置
補強板(または壁の下地)に手すり用の金具(金属ブラケット)を取り付けました。マーキングした位置に下穴を開けてビス留めし、金具が確実に固定されたことを確認しました。今回は斜め設置のため、角度調整可能な可動式タイプの金具を採用しました。手すり棒を通した際に無理な力がかからないよう、取り付け角度を慎重に調整しています。金具の取り付け後、水平度と強度を再度チェックしました。
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手すり棒の取り付け
手すり棒(木製丸棒)を現場に合わせてカットし、両端にエンドキャップ(樹脂製カバー)を装着しました。準備した金具に手すり棒をセットし、固定用のネジでしっかりと締め付けます。取り付け後、手すり全体にがたつきがなく安定していることを職人自身が体重をかけて確認しました。
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仕上げと清掃
手すりの取り付け部に緩みがないか最終確認し、金具カバーをはめて見た目を整えました。また、工事で発生した木くず・粉塵を掃除機できれいに吸い取り、養生を撤去しました。最後にアルコール消毒液で手すり表面を拭き上げ、すぐに安全かつ清潔に使える状態にしました。
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依頼主様・お母様による確認
工事完了後、依頼主様とお母様に実際に手すりを握って昇降動作を試していただきました。高さ・太さともに「ちょうど良いです」とのお言葉をいただき、使い勝手にもご満足いただけました。取り付け位置や強度にも問題がないことをその場で共に確認し、これで工事完了となりました。
施工後の確認と効果
手すり設置後、お母様は玄関の上がり框を上り降りする際、常にしっかりと掴まることができるようになりました。工事前は家族の支えなしには不安だった段差が、手すりのおかげで安全に昇降できるようになり、ご本人の自信にもつながっています。実際にお母様が新しい手すりを使って玄関を上がったところ、「体が安定してとても楽になった」と笑顔を見せてくださいました。傍で見守っていた依頼主様も「これで転倒の心配がぐっと減り、安心して見ていられます」と安堵のご様子です。
今回取り付けた手すりは玄関の雰囲気になじみ、後付けとは思えない自然な仕上がりとなりました。材質や色を工夫したことで、まるで元から備え付けられていたかのようにインテリアと調和しています。また、安全性はもちろんですが美観にも配慮したことで、ご家族の満足度も高まりました。玄関という家の出入口がバリアフリー化されたことで、高齢のお母様だけでなく日々暮らすご家族にとっても、安心で暮らしやすい住環境への大きな一歩となったと言えるでしょう。
まとめ
最後に、今回の玄関手すり取り付け工事で押さえておきたいポイントを整理します。
使用者に合わせた高さ設定:
手すりの高さは一般的な基準だけでなく、実際に使う方の体格や動作に合わせて現場で調整することが重要です。依頼主様立ち会いのもと高さ確認を行うことで、より安心して使える手すりになります。
確実な下地補強と安全施工:
戸建て住宅のバリアフリー改修では、壁内部の下地状況を把握し、必要に応じて補強板を使うなど安全性を最優先にした施工が求められます。構造体にしっかり固定された手すりは、体を預けてもびくともしません。
住宅になじむ材質とデザイン:
バリアフリー目的の後付け手すりであっても、材質や色味を工夫することで既存のインテリアに調和させることが可能です。見た目にも満足できる仕上がりにすることで、ご家族の心理的抵抗感も減り、設置後の受け入れがスムーズになります。
玄関への手すり設置は、小さな工事ながら高齢者の安全と家族の安心につながる大変効果的なバリアフリー改修です。親御さんの自宅介護を検討中の方や、ご自宅の段差解消に悩まれている住宅施主の方は、ぜひ一度ご相談してみてください。プロの目線で現場を確認し、住まいに合った最適な手すりプランを提案させていただきます。今回の施工事例が、その検討の一助となれば幸いです。